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「局所スケールにおけるクロタマキビの繁殖スケジュールと形態・遺伝的差異」

山崎友資(蘭越町貝の館)


小さな港の内外におけるクロタマキビ (タマキビガイ科・直達発生様式) 個体群間における繁殖のタイミングと形態・遺伝的差異を比較した。 外海に露出した港の外側に生息する本種は、貝殻形態は小型、貝殻表面には、波との摩擦を軽減すると考えられるリブレット(溝) 構造が発達している。 また、足の面積は大きく、付着力は強く水流による剥ぎ取られるリスクは低い。殻色は、殻頂は黒色であるが、成長の途中で灰褐色になるパンダタイプが多く生息している。 一方で、外海から守られた港の内側は、貝殻形態は大型、貝殻表面は滑らか。また、足の面積は小さく、付着力は弱く、水流に対する剥ぎ取られるリスクは高い。 殻色は、全体が黒色になるブラックタイプが多い。このように、調査地には、僅か約1 m の港の壁を境に、著しく形態が異なるクロタマキビが生息している。 港の内外の個体群間における繁殖のタイミングを比較した結果、外側の個体群のほうが繁殖のタイミングは早く、その終盤に内側の個体群の繁殖が始まり、僅かながら、両個体群の繁殖期は重なる。そこで、ミトコンドリアDNA と核DNA の塩基配列を解析した。 結果、個体群間に明確な差異は見られず、現在も遺伝子流動があるか、あるいは、遺伝的な分断はまだ進んでいない、ということが示唆された。この結果は、繁殖期が一定期間重なること、即ち、完全な繁殖隔離が固定されていないことと一致する。今後、マイクロサテライト解析などによって、遺伝的障壁が検証される可能性もある。繁殖する上で重要な陰茎形態を個体群間で比較した結果、個体群内での変異が著しく、個体群間での比較には詳細に精査する必要がある。

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