top of page

​岩礁潮間帯に住む生物たち~間接効果とねばねばでつながった関係~

和田 葉子 博士(北海道大学環境科学院RPD)

Abstract 

 

森や川,砂漠やジャングル,そして海岸。様々な環境下で,どのような種がどれくらいの数生息できるのか。この問いに答える上で,種間で生じる直接・間接効果を評価することは群集生態学の中心テーマの一つである。現在,間接効果はその影響の及び方から2種類(密度媒介型と形質媒介型間接効果)に分けられているが,長い間,捕食者が被食者を食べ,その密度が変化することで生じる“密度媒介型間接効果”が議論の中心であった。しかし,近年,捕食者が被食者に“恐怖”を与え,その行動・形態・生活史などの形質を変えることで生じる“形質媒介型間接効果”の存在が指摘され,その重要性が叫ばれている。先行研究では,捕食者の匂いを放出する処理などを行うことで形質媒介型間接効果が評価されてきたが,そのほとんどが交絡要因を制御しやすい室内や閉鎖的な屋外実験系で短期的(数日から数週間)に行われており,過大評価になっていることが懸念されていた。そこで私は一貫して自然状態での実験検証をスタイルとし,岩礁潮間帯に存在する捕食者:肉食性巻貝-被食者:藻食性笠貝-生産者:藻類からなる系を用いて,間接効果を“正しく”評価することを目指した。本セミナーの前半では,この間接効果に関する研究を紹介し,捕食者の匂いが常に消されるような野外環境下でも、形質媒介型間接効果は有効に働くのか,構成種の季節性が,間接効果の正負や強度をどう規定するのかについてお話しする。

 一連の研究を通し,岩礁が貝類のつけた“粘液”の跡で張り巡らされている様子や,貝類どうしが他種や他個体の粘液跡に反応している様子が観察され,岩礁潮間帯に存在する群集が,貝類粘液を介した種間相互作用網“ねばねばネットワーク”で駆動されているのではないかというアイディアを着想した。本セミナーの後半部分では,実際に岩礁がどれくらい粘液に覆われているのか,粘液を介して捕食者や被食者がどのような情報戦を繰り広げているのか調べた研究の紹介をする。

発表の最後には,元気すぎる息子たちの妨害を受けつつ,どのように研究を推進しているのかについても少しお話ししたい。

bottom of page