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スケールと複雑性:分岐ネットワークにおける生態現象の一般化

Scale and complexity: generalizing ecological patterns in branching river networks

照井 慧 博士(UNC Greensboro)

Abstract

対象とするシステムの中にシンプルな一般則を見出すことは、科学の根幹をなす営みであろう。しかし、生態学において一般則を見出すことは容易ではない。なぜなら、生物間相互作用や生物-環境間の関係は非常に複雑なものが多く、そこに見られる生態現象は状況依存的になりがちだからである。しかしながら、生態学には一般則と呼ばれるいくつかのパターンが存在する。その一つが空間によるスケーリングである。一般に、生態系のサイズが大きくなるほど、そこに内包される環境の異質性や集団・群集サイズは増加する。その結果として、メタ個体群の動態の安定化や種数の増加、さらには食物連鎖長の増加などがみられる。しかし、こうした空間によるスケーリングは、2次元的な平面によって近似できる生態系には有効だが、より複雑な空間構造をもつ生態系には必ずしも当てはまるとは限らない。私はこの観点から、複雑な分岐構造をもつ河川ネットワークに注目し、いかに生態系の空間的な複雑性(河川ネットワークの分岐の程度)が生態現象に影響を及ぼすのかを検証してきた。その結果、河川ネットワークの分岐構造が複雑化するほど、種レベルのメタ個体群の長期動態は安定化し、流域レベルでみた種多様性(γ多様性)も増加することがわかってきた。これらの現象を支える仕組みは状況に応じて変化すると考えられる。しかし、結果として現れるパターンは、種や地域を超えて共通していた。本発表では、これらの発見の元となる理論モデルの枠組みやその予測を検証した実証研究について発表したい。現在は、これらの枠組みを共生系および食物網へと拡張しているところである。これらの研究を通じ、枝分かれ構造をもつ生態系における一般測(パターン)について、あらたな視点を示したいと考えている。

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