top of page

「北海道のカタツムリ種群にみられる表現型と系統樹の著しい不一致:捕食者によって引き起こされたのか?」

森井悠太(東北大、千葉研D3)



表現型の多様化と維持のメカニズムの理解は、進化生態学における中心的な課題の一つである。これまでに環境適応や種間競争などがメカニズムとして提唱されているが、生態的に極めて重要な要素であるはずの捕食者の影響がほとんど考慮されてこなかった。陸産貝類、すなわちカタツムリには、殻という捕食者に対して有効かつ容易に計測できる形質があり、捕食者-被食者間相互作用に着目した表現型多様化を観察するのに適している。また移動分散能力が低いことから、歴史的な背景を考慮に入れた表現形多様化のメカニズムを追跡しやすいというメリットもある。

発表者は、北海道およびユーラシア大陸北東域に分布するオナジマイマイ科のカタツムリ種群にみられる、著しい表現型の種間差と系統的な近縁性に着目して、その多様化と維持のメカニズムの解明に取り組んできた。その中でも、北海道に産するヒメマイマイとエゾマイマイは、遺伝的に特に近縁であるにもかかわらず、殻形態・体サイズおよび行動形質に著しい種間差があることが示された。それらの表現型の特徴から、種間差は捕食者への適応戦略の違いに起因するものと考えられた。つまり、2種の中間型の表現型をもつ個体は、捕食者からの攻撃に対応できず、野外で生存しにくい状況にあるということである。

加えて、ロシア極東域においても、北海道で見られたものとよく似た殻形態の多様化が観察された。しかも、核ITS-1,2領域(約1200bp)による系統推定の結果から、島嶼(北海道およびサハリン島)とロシア極東域の種群はそれぞれの地域で独立に多様化した可能性が示唆された。これらの結果から、オナジマイマイ科北方種群では、捕食者によって、反復適応放散が起こった可能性が浮上してきた。

bottom of page