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「タンガニイカ湖産カワスズメ科魚類のきょうだい間攻撃の至近・究極・進化要因」

佐藤 駿 博士(総合研究大学院大学 先導科学研究科)

Abstract 

 血縁者間対立の理解は行動生態学における恒久的課題であるが、その進化要因を明らかにした研究は少ない。特にきょうだい間対立は長年、鳥類を対象とした行動生態学においてホットトピックであったが、他の分類群では研究が進んでいない。本発表では、私がこれまで行ってきたタンガニイカ湖産カワスズメ科魚類を対象とした”親に保護されている幼魚間の攻撃”に着目した研究を紹介する。対象種であるカワスズメ科魚類はこれまで報告されたすべての種類で「子育て」行動が報告されており、主に南米・アフリカ大陸に生息している比較的小型の魚類である。タンガニイカ湖産カワスズメ科魚類は現在までに固有種として約250種が確認されており、急速な種分化のモデルケースとして進化生物学者の注目を集めている。同湖産のカワスズメ科魚類は近縁種であるにも関わらず、多様な社会や生態、生活史を持つことが知られており、観察・飼育も容易であることから比較研究に極めて適している。

 

実際、私が着目している兄弟姉妹間の攻撃行動(以下、きょうだい間攻撃)についても近縁種でありながら、激しくきょうだい同士が攻撃し合う種とそうでない種が存在している。本発表ではカワスズメ科魚類のきょうだい間攻撃を引き起こす至近要因(満腹度・巣の構造など)、究極要因(餌の独占・分散遅延など)に関する野外観察と実験的証拠について概説し、彼らがなぜ・どのように争うのかについて考察する。また、約40種のカワスズメ科魚類を対象とした種間比較からきょうだい間攻撃の進化と「配偶システム」や「利用する餌の特性」、さらには「社会の複雑性」の関係性について議論する。また、きょうだい間攻撃がその種の生活史形質に影響しうるかについても議論する。

 

(時間が余れば、私がサブワークとして行っているカワスズメ科魚類の向社会性に関する実験結果についても紹介する。霊長類などで行われる向社会的選択課題PCTをカワスズメ科魚類の一種であるコンビクトシクリッドがクリアすることを示した上で、魚類の「他者に利益を与える行動」を支える認知基盤について考察し、霊長類とそれを比較することで脊椎動物における向社会性の進化的起源は魚類にまで遡るという仮説を紹介したい)

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