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「懐くマウスと移入ジカからみる哺乳類のゲノミクス」
松本 悠貴(総合研究大学院大学/国立遺伝学研究所)
Abstract
近年、ゲノム解析技術の発展により、多くの哺乳類でゲノム解析が盛んに行われてきている。本発表では、演者がこれまでに行ってきた、モデル動物のマウスと野生動物のタイワンジカを対象としたゲノム研究を取り上げる。
前者は、人に懐くという行動に関わる遺伝領域を同定することを目的とした、マウスを用いた行動遺伝学的研究である。懐く行動は、一般に野生種では見られない一方、家畜で顕著に見られる行動形質であり、その遺伝的な理解は、新規家畜化や収斂進化の理解に有用である。この研究では、生得的な懐きに対する選択交配とゲノム情報解析を統合することで、懐く行動に関わる遺伝領域を同定した。また、同定した領域が他の哺乳類でも懐きに関わるかどうかを明らかにするために行った、ラットやイヌとの比較ゲノム解析の結果についても紹介する。
後者は、移入種のタイワンジカを対象とした保全遺伝学的研究である。1955年に、和歌山県の友ヶ島にニホンジカの台湾亜種であるタイワンジカが移入されたが、この個体群はタイワンジカと他の外国産シカ属の種との雑種個体群であることが分かっている。近年、友ヶ島に近い、本州の大阪府南部でシカが捕獲された。友ヶ島付近の海上をシカが泳いでいるところが目撃されていることから、友ヶ島の個体が島外へ逸出し、本州に上陸している可能性がある。捕獲個体の由来を遺伝的に明らかにするため、公共の次世代シーケンサーのゲノム情報を活用した種判別法を新たに開発し、これまでに、その有効性を示す結果が得られている。
本発表では、上記二つの研究を紹介しながら、哺乳類ゲノミクスの現状と今後について議論したい。
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