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「性比の歪みから考える個体群が回復しない理由」

 

千葉 晋 (東京農業大学, 生物産業学部)

Abstract 

保全や利用を目的に、縮小した個体群を回復させようとする場合、手厚く守る、あるいは我慢して獲(採)らないという対応が基本になるだろう。しかし、生息環境に大きな問題はないはずなのに、期待したように個体群が回復しないこともある。Alee effectやDepensationなどとも呼ばれるこのような現象には、残った個体の数という量的な問題ばかりでなく、残った個体の質的な問題も影響していそうである。たとえば、期待したように残った雌が繁殖してくれないなら、その雌は期待された1個体ではなくなる。このセミナーでは繁殖率の期待値を下げるような質的な問題として、性比と水産資源管理という視点から話題を提供したい。

 

基本的に性比は進化的に安定な状態にあるが、成体性比、実効性比などと限定してみると、性比の揺らぎは何も珍しいことではない。しかも、漁獲対象種などのように人間活動の影響を強く受ける個体群では、しばしば自然ではありえないレベルで性比は歪む。そもそも個体群保全という視点からの性比研究自体が多くないのだが、とりわけ水産資源の管理となると性比が注目されることはほとんどない。

 

ホッカイエビ(北海しまえび)という雌が漁獲対象となる動物を例に、性比を歪める漁法が個体群回復の妨げとなる、という内容でお話しする。特に、性比の歪みに対する(1)エビの生活史応答とその限界、(2)遺伝的多様性維持のメカニズムとその限界について述べ、さらに(3)雄による過剰な交尾がもたらす雌のコストを紹介する。これらを踏まえて、持続可能な生物資源利用のためには個体数の管理ばかりではなく、生物がもつ可塑的な柔軟さをうまく利用した性比管理を提案する。

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