「フィールド生態学者が挑む理論研究:数理・統計屋さんとのコラボから学んだこと」
小泉 逸郎(北海道大学, 環境科学院)
Abstract
「この現象は理論的には○○と予測できる」「理論研究によると○○」「今回、○○に関する数理モデルを構築した」
・・・これらのフレーズは、野外でただひたすら生き物を追いかけていただけの大学院生にとっては崇高な響きをもっていた。むしろモデルを使えば何でも解決できてしまうとさえ信じていた。
理論モデル、統計モデル、解析的、シミュレーション、これらの違いも何も分からなかった自分が、専門家たちの力を借りて理論研究・モデル研究を行うことができた。博士課程2年時に九州大学数理生物学教室に殴り込みをかけて(返り討ちにあって)早15年。。。こんな世界があったんだ。こんな人たちがいたんだ。。。今となっては、当時の無知ゆえの無謀さが今に繋がっているのだと思う。
本セミナーでは幾つかの事例研究を紹介しながら、自分が数理・統計モデルに興味をもったきっかけや、どのように研究を進めてきたのかをお話しする。個別研究をじっくりと紹介するというよりは、自分が考える「モデル研究とは何か?」「実証研究にどのように使えるのか?」や、フィールド屋さんに必要な理論的基礎などについて意見を述べたい。
参考論文
小泉逸郎(2007)文化の違いが生み出す研究スタイルの違い:短時間で高生産、かつリラックスしたフィンランドの研究環境.日本生態学会誌,57,265-269.
Koizumi I., Yamamoto S. and Maekawa K. (2006) Decomposed pairwise regression analysis of genetic and geographic distances reveals a metapopulation structure of stream-dwelling Dolly Varden charr. Molecular Ecology, 15, 3175-3189.
Higa M, Yamaura Y, Koizumi I, Yabuhara Y, Senzaki M and Ono S. (2015) Mapping large-scale bird distributions using occupancy models and citizen data with spatially biased sampling effort. Diversity and Distributions, 21, 46-54.
Koizumi I. and Shimatani IK. (2016) Socially induced reproductive synchrony in a salmonid: an approximate Bayesian computation approach. Behavioural Ecology, 27, 1386-1396.
Tachiki Y. and Koizumi I. (2016) Absolute vs. relative assessments of individual status in status-dependent strategies under stochastic environments. The American Naturalist, 188, 113-123.