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「ウミネコの個性が集団繁殖において果たす機能とウミネコの糞が食糧生産において果たす役割」

風間健太郎博士(名城大学,学振 PD) 

はじめにウミネコの個性の話をする。多くの個体が密集して繁殖する海鳥では、捕食リスクや捕食者に対する防衛コストが隣接する個体によって均等に共有されていると考えられてきた。しかし、北海道利尻島で集団繁殖するウミネコの捕食者に対する防衛強度には、血中ホルモン(テストステロン)濃度の差から生じる大きな個体変異があった。防衛強度は季節や年をまたいで個体に一貫していた。防衛強度の高い一部の個体のみが常に積極的な防衛を行うことにより、それらの個体の周辺に営巣する個体は自身が防衛を行わずとも捕食リスクを減少させて繁殖成功率を上昇させられた。さらに、防衛強度の高い個体の周辺ほど多くの個体が密集して営巣しており、防衛強度の個体変異は巣場所の選択や集団の形成プロセスにも影響しうることがわかってきた。セミナーでは、発表者の一連の研究を紹介し、隣接個体間の血縁関係や婚外受精の検証結果から明らかになりつつある、一部の個体による利他的な防衛の進化・生態学的な意義についてお話しする。 
続いてウミネコの糞(うんこ)の話をする。魚食性の海鳥が糞として供給する大量の栄養分により営巣地の植物の生産性が高まることはよく知られてきた。こうした海鳥による栄養分供給は人間の食糧生産に貢献しないだろうか。私は安定同位体をトレーサーに用いてこの可能性を検証している。上述の利尻島では、ウミネコによって沿岸域に供給される窒素は乾重量で年間最大4,000kgにものぼり、この窒素供給は沿岸域の食糧生産に貢献することがわかってきた。営巣地周辺海域ではリシリコンブを含む複数の海藻類や無脊椎動物が糞由来の窒素を体内に多量に取り込んでおり、その生産性は営巣地に近接していない海域に比べて最大で2倍程度高かった。同様の事例は里山農耕地でも確認された。愛知県美浜町のカワウ営巣地に隣接する水田では、カワウの糞が営巣地から流れ込むことにより、化学肥料をほとんど用いなくともイネを栽培できていた。セミナーでは、これら海鳥が提供する新たな生態系サービスについての一連の研究を紹介するとともに、私が個性とうんこといった大きくかけ離れた研究テーマに取り組ようになった背景についてもお話ししたい。 

 

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