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洞窟にすむ生き物とそれを研究する酔狂な生き物

安藤 奏音 博士(釧路公立大学 / 日本洞穴学研究所)

要旨

 既知の洞窟は、地球上に存在する洞窟全体のわずか1%未満にすぎない。外界から隔絶されたその環境は、生物に独自の進化を促し、人類にとっては新種や新資源との出会いの場となってきた。しかし、洞窟はきわめて壊れやすい生態系を持っており、わずかな有機物の混入でも不可逆的に変質する。本講演では、暗い・狭い・寒いという不人気な三拍子の向こう側に広がる、見えにくいが貴重で豊かな自然へと皆さんを誘う。

 観光洞では固有種が観光資源や地域の精神的支柱としての役割を果たす一方、人為影響による持続可能性の低下が懸念されている。観光収益を重視すれば原生的な生態系は失われ、保全を優先すれば地域経済が損なわれる。このジレンマに挑むため、私は洞窟生物への環境影響評価と社会調査を組み合わせた学際研究を実践してきた。異分野の研究者はもちろんのこと、地域住民や行政、観光客など、あらゆる関係者を巻き込みながら、人間も含めた洞窟生態系の保全計画論を模索している。

 メロディックデスメタルやプログレッシブメタル音楽を愛する私が洞窟に入ったときの第一印象は、「ここでライブがしたい」だった。天然のリバーヴが生む低音の響きは圧倒的で、音楽のために設計されたホールすら凌ぐように思えた。私は研究者の道を選んだが、作曲や歌をやめることはない。なぜならば、洞窟ライブという「研究と音楽が交差する場」をいつか実現することこそ、私にとって人生の集大成だからである。

皆さんなら、この非日常的空間を前に、何を思うだろうか。

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