雌雄同体動物における性の可塑性とその適応的意義:海のフジツボを題材として
為近 昌美 さん(北海道大学 水産科学院)
要旨
地球上の多くの生物は「性」を持ち、その在り方は実に多様である。なかでもフジツボ類は、雄、雌、そして雌雄同体の3つの性表現を示し、環境に応じて性表現自体を可塑的に変化させる(例えば、雄から雌雄同体)。また、同じ性表現の中でも可塑性を示し、雌雄同体では雌雄機能への資源配分比(=性配分)が変化することで、性配分がオス機能に偏った個体や、雌雄両機能を均等に持つ個体が見られる。このような背景から、フジツボ類は性の可塑性の進化やその適応的意義を理解する上で理想的な研究対象である。
本セミナーでは、フジツボ類において、雌雄同体を起点として、多様な性表現が進化してきたという背景から、雌雄同体個体の性の可塑性(性配分)に焦点を当てる。個体の形質(体サイズ)や種内関係(配偶可能な相手の数)、さらには種間関係(寄生)が性配分に及ぼす影響を報告した研究成果を紹介し、観察された可塑性の適応的意義を考察する。また、雌雄同体におけるオス機能の繁殖成功度は、その評価手法自体の開発を要するために調べた研究が少なく、オス機能の繁殖成功度と性配分の関係はよくわかっていない。本セミナーでは、その評価のために独自にマイクロサテライトマーカーを開発して行った最新の研究成果も取り上げ、そこから明らかになってきた個体の形質と性配分との関係についても考察する。
最後に、私は学部卒業後に水族館の飼育員として勤務し、その後、妊娠・出産、そして現在は子育てと、様々なライフイベントを経ながら研究活動を継続してきた。そのようなライフイベントが私の研究活動に与えた影響と、どのように研究を継続してきたかについても合わせてお話ししたい。
参考論文:
Tamechika MM, Yusa Y, Akita S, Sekino M (2025) Microsatellite DNA markers for paternity identification in the hermaphroditic barnacle Chthamalus challengeri Hoek [Preprint]. Research Square. https://dx.doi.org/10.21203/rs.3.rs-7024057/v1
Tamechika MM, Yamada H, Ijiri S, Yusa Y (2025) The effects of parasitism on sex allocation of a hermaphroditic acorn barnacle. Journal of Evolutionary Biology 38:417–429. https://doi.org/10.1093/jeb/voaf007
Tamechika MM, Matsuno K, Wada S, Yusa Y (2020) Different effects of mating group size as male and as female on sex allocation in a simultaneous hermaphrodite. Ecology and Evolution, 10(5): 2492–2498. https://doi.org/10.1002/ece3.6075