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家畜寄生虫をあえて自然環境で追いかける~シカと肝蛭に着目して~
尾針 由真 博士(北海道大学 人獣共通感染症国際共同研究所 助教)
Abstract
自然環境からヒトや家畜に伝播する感染症の拡大によって、野生生物との関わり方が注目を集めている一方で、人為的環境から野生生物に拡大してしまう病原体についても適切に監視し、One Healthにおける生態系の健全性を考慮していく必要がある。反芻動物家畜に肝蛭症を引き起こす肝蛭Fasciola sp.は、日本では20世紀以降家畜における感染率が低く推移しているものの、近年野生のシカCervus nipponにおいて高率な寄生の報告が増加している。シカは個体群や生息域が急速に拡大しており、それに伴って肝蛭の分布や生活環も自然環境へ拡大し、さらには再興感染症として家畜における肝蛭症が再流行することが懸念されている。肝蛭は、その生活環の成立に終宿主の哺乳類だけでなく、中間宿主であるモノアラガイ科の淡水棲巻貝類も必要であるが、これまで家畜飼養領域における生活環は明らかになっているものの、野生生物における肝蛭感染や自然環境での生活環などは注目されていなかった。また、家畜と野生生物に感染する肝蛭の関係についても明らかになっていなかった。そこで本発表では、自然環境下における肝蛭の分布や生活環の探索から、家畜とシカの間における肝蛭の相互伝播の可能性を追った一連の研究について紹介する。
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