休眠はどのように決まるのか?〜ミジンコで生態学と分子生物学をつなぐ〜
丸岡 奈津美 博士(東北大学生命科学研究科・学振特別研究員RPD)
要旨
休眠は、幅広い分類群で見られる不適環境を乗り越えるための生存戦略である。生物は、日の長さや温度変化、混み合いなどの環境刺激を手がかりに休眠するが、集団内でも休眠率には大きな変異があり、これは様々な生息地への適応に重要である。しかし、生物の多様な休眠戦略が生み出される分子基盤の全貌は未だ明らかになっていない。動物プランクトンであるミジンコは、好適環境では急発卵を生み増殖する一方、不適環境を察知すると休眠卵を産生する。私はこれまでミジンコを対象に、野外湖沼における休眠戦略の生態的意義と、その分子機構の解明に取り組んできた。
野外採集と室内実験により、同一湖沼に生息するミジンコ種内2系統のうち、増殖力の劣る系統は、競争者の増加を察知して速やかに休眠卵を産生し、競争排除される前に休眠卵を残すことを発見した。すなわち系統間の休眠戦略の違いが、2系統の共存に重要であることが示唆された。そこで私は、同種でありながら休眠戦略が大きく異なるしくみを明らかにしたいと考えた。まず、同一飼育条件で、休眠しやすい系統でのみ安定的に休眠卵を誘導できる比較実験系を確立し、休眠卵生産前に発現変動する遺伝子の網羅的な解析を行った。得られた候補遺伝子を手がかりに、幼若ホルモン(JH)が休眠を誘導することを明らかにした。さらにJH暴露への応答が休眠戦略の異なる系統間で異なることを発見した。現在はJHを介した休眠卵生産経路を明らかにするため、ミジンコ卵へのマイクロインジェクションによるゲノム編集にも取り組んでいる。
本発表では、これまでの研究成果の紹介を通してミジンコの生態の面白さを伝えるとともに、野外生態学と分子生物学を融合したアプローチの展望についても議論したい。
演者researchmap:https://researchmap.jp/maruoka_natsumi